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父の秘密 [映画(た)行]

父の秘密.jpg
満足度 ★★★★☆

父 キレる!

この作品を一言で表現すると、そうなります。凄まじい映画です。ラスト数分間の長回しは、映画史上に残るシーンになるでしょう。観ている者は、安堵とともに寂寥感と罪悪感にも襲われ、それらが頭の中で渦巻いて、ものすごく複雑な気持ちになります。

長編作品はまだ2作目だというマイケル・フランコ監督、こう言われては迷惑かもしれませんが、メキシコのミヒャエル・ハネケとでも呼びたい気持ちです。畏れ入りました。

高級リゾートでシェフをしていたロベルトは、妻を不慮の交通事故で失い、立ち直れないでいます。そこで、何もかも新しい環境でやり直そうと、娘を連れてメキシコシティに移住します。しかし、突然泣き出したり怒りだしたり情緒不安定で、新しい職場にはなかなか馴染めません。

一方、娘の方は新しい学校に徐々に溶け込んでゆきますが、ある事件をきっかけに友人からのイジメが始まります。このイジメ描写が容赦ないので、気分が悪くなります。でも、娘は父を気遣って打ち明けられません。学校行事で海辺のリゾートに滞在している時、娘は夜の海に消えてしまいます。

これをきっかけに、それまでウジウジと煮え切らなかった父親が豹変します。娘に対するイジメの事実をつかみ、首謀者とその仲間を特定し、糾弾しようとしますが、いかんせん相手がまだ未成年なので、重い罰を与えることはできません。

法律で罰することができないなら、オレが超法規的に罰してやる。もうこれ以上失うものなどなくなった父は、完全にキレてしまい、思いがけない行動に出ます。そしてラストの長回しシーン。目的を達成した後、一度も振り返ることなく毅然と前を見据えた鬼気迫る彼の姿が、眼に焼き付いて離れません。



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天使の分け前 [映画(た)行]

天使の分け前.jpg
満足度 ★★★

仕事もなく家もなく、暴力に明け暮れていた貧困層の若者が、ふとしたことからウィスキーの魅力に目覚め、良いウィスキーを造ることで社会に認められ、立ち直ってゆく話・・・かと思っていましたが、そんな凡百の陳腐なストーリーではありませんでした。いい意味で期待を裏切ってくれる作品です。

貧困層から抜け出すため、主人公はある策略を企てます。それに関しては賛否両論あるでしょうが、計画が思い通りに進まなくて神様から少し罰を受けたし、得た分け前を誰にも均等に分けたし、親身になって世話をしてくれた保護監察官にも素敵なプレゼントを贈れたので、大目にみてあげてもいいのではないでしょうか。

天使の分け前というのは、ウィスキーを樽に寝かせているうちに毎年2%くらいずつ蒸発してゆく分のことだそうですが、主人公たちに少しずつ分け与えられた幸せのことも表しているようで、とても良いタイトルだと思います。



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ドリームハウス [映画(た)行]

ドリームハウス.jpg
満足度 ★★★★☆

「ディスコード」に続いてまたホーンテッドハウスものを観ました。

ポスターは「シャイニング」を彷彿とさせますし、共演が「ザ・リング」のナオミ・ワッツですから、怖さを前面に出した作品かと思うのが普通でしょう。しかし、ダニエル・クレイグ主演で奥さん役はレイチェル・ワイズ、こんなに豪華なキャストでジム・シェリダン監督がわざわざ普通のホラーを撮るはずがありません。予想通り、ホラーの形を借りてはいますが、本質的には家族愛のドラマでした。

ストーリー(ネタバレなし)
同僚に「会社に住んでるのかと思ってた。」と言われるくらいワーカホリックだったウィルは、会社を辞めて郊外に念願のマイホームを購入し、そこでゆっくり家族と過ごしながら本を書き、作家としての第二の人生をスタートさせた。ところが、その家に次々と奇怪な出来事が起こるようになり、そこは5年前に起きた一家虐殺事件の舞台だったことがわかる。家族を守るためウィルは孤軍奮闘するが、事件を追いかけるうちに驚愕の事実を知ることになる。

本作はアメリカではコケたそうですが、それは役者の責任でもなく、監督の責任でもなく、ひとえに製作者側の責任だと思います。

まず、冒頭に述べたように、このポスターを観ただけでホラーが苦手な人は絶対に観に行かないでしょう。この作品はホラー仕立てにはなっていますが、家族愛のドラマなのです。それを前面に打ち出したポスターにすべきでした。

それから、最大の失策はアメリカ版予告編でしょう。ウィルが知る驚愕の事実、それをなんと予告編でバラしてしまってます。ありえんでしょ、そんなの。さすがに日本版ではカットされてましたが。

もうひとつ、とってつけたようなラストシーン。せっかく感動的なシーンで余韻を持って終われたのに、なんで最後に余計な小細工をするかなあ。これには役者さんたちも監督さんも猛反対したそうですが、結局製作者側に押し切られたようです。

とまあ、いろいろと興行上の問題があり、「ドラゴン・タトゥーの女」と「カウボーイ&エイリアン」に挟まれて、ぞんざいな扱いをされている本作ですが、良い意味で予想を裏切ってくれるし、とても観応えのあるドラマだったと思います。

TSUTAYAさん、これをホラーの棚に置いちゃいけませんよ。



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ディスコード [映画(た)行]

ディスコード.jpg

満足度 ★★★★

ホーンテッドハウスものが観たくなってレンタルDVDで鑑賞。
低予算のインディペンデント映画なので、未公開だったらしい。
もちろん役者さんも知らない人ばかりですけど、主役を務めたケイティ・ロッツのちょいブスな感じが、昔好きだったスーザン・ジョージを彷彿とさせて、懐かしい気持ちになりました。

70年代にブイブイいわせてた(←死語ですか)頃のスーザン・ジョージ。今見ても胸キュンだわ(← またまた死語ですか)。
Susan-George.jpg
STRAW DOGS.jpgDIRTY MARY CRAZY LARRY.jpg

ストーリー(ネタバレなし)
異常なまでに厳格な母親に育てられた二コール、アニー姉妹。それぞれが自立してからは絶縁状態となっていた母が亡くなり、遺品を整理するため実家に戻った姉二コールから、葬式には出るようにと電話で説得され、妹アニーも戻ってくる。
久しぶりに実家を訪れたアニーだったが、なぜかそこに姉の姿はなかった。仕方なく実家で過ごすことになった彼女を様々な怪奇現象が襲う。

こりゃ、なかなかの秀作ですよ。特にカメラワークが秀逸。
ドアの向こうの漆黒の闇を、微妙に揺れながらじーーーーーーーっと映すことで、たとえようもない恐怖を演出しています。

PCのテレビ電話で娘と話す二コールに、娘がこう言います。
「ママ、後ろにいるの誰?」 ヒョエ━━━━(゚A゚;)━━━━ッ!!

最初はオカルトものかと思わせといて、途中からガラッと異なる展開になったりして、飽きることなく楽しめました。お金かけなくてもアイデアだけで面白い映画はできるんだってことを証明してくれたこの監督、次回作が楽しみです。



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トランスフォーマー / ダークサイド・ムーン   @MOVIX倉敷 [映画(た)行]

トランスフォーマー ダークサイド・ムーン.jpg
満足度 ★★★☆

まず、メインタイトルTRANSFORMERSの「ズ」を省いてしまう意味がわからない。登場する金属生命体は一体ではないのだから、絶対にトランスフォーマーズとすべきだろう。おまけに、サブタイトルDARKSIDE OF THE MOONも「ダークサイド・ムーン」にしている。こういういい加減な英語を氾濫させて何とも思わないのが我が国の映画界や音楽界の常識なのだ。実に情けない。

それはさておき、トランスフォーマーと言われると、真空管アンプ造りが趣味の私には、こっちが思い浮かぶ。
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今回、何と言っても残念なのは、ミーガン・フォックスが舌禍により降ろされた諸般の事情で出演できなかったこと。彼女の替わりにヒロインを演じるのは、やたら長い名前で(嫌がらせかい!)やたら背の高い、オーラも品もない女。

このテの作品は、ストーリーより何より、CGとヒロインなのだ。ヒロインがあの女になった時点で30点減。CGが群を抜いて素晴らしかっただけに、とても残念。ま、メンズデー特別料金で鑑賞できたから文句は言えませんけどね。

むしろ、意外な人が出演していたので、かなり得した気分になれた。

意外な出演者その1は、ジョン・マルコヴィッチ。
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「コン・エアー」での極悪人ぶりが最高だった。ダニー・トレホとのツーショットが美し過ぎる。

今回、ヒロインにきれいな白髪を褒められるシーンがある。ジョンは、かなり若い頃から頭髪が薄いので、あれはズラなのだ。髪のことを褒められて少し恥ずかしそうにする彼、わかっている人はあそこで笑えたはずだ。

意外な出演者その2は、フランシス・マクドーマンド。
FRANCES.jpg
「ファーゴ」では、人の良い田舎の警官しかも妊婦というコミカルな役だったのに、今回は都会的で高慢ちきなCIAキャリアの役を演じていたのが可笑しかった。シモンズ(ジョン・タトゥーロ)とかつて恋仲だったという設定も笑わせる。二人ともコーエン兄弟作品の常連だけに。

もうひとつ、出演者ではないが意外な歌が聞こえてきたのに驚かされた。サムが、勤務している会社でケン・チョン演ずるハイテンションな中国系アメリカ人にからまれる時、デビー・ブーンの " You Light Up My Life " が流れていたのだ。

ブーンといっても、「はこBOON」の親戚じゃございませんぜ。「砂に書いたラブレター」を唄っていたパット・ブーン様の娘じゃ。え~い、頭が高い!控えおろう!



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デザートフラワー   @シネマ・クレール [映画(た)行]

デザートフラワー.jpg
満足度 ★★★★

砂漠に咲いた一輪の花 その可憐な美しさが世界の人々を魅了する。

ソマリアと聞いて、それがアフリカ大陸の何処に位置しているか、明確に認識している人は少ないだろう。映画ファンなら、リドリー・スコット監督の「ブラック・ホーク・ダウン」の舞台と聞いて納得できるかもしれない。

アフリカ大陸の東の端、サイの角のようにインド洋に突き出た形の国。そのソマリアの砂漠で、遊牧民の娘として生まれたワリス・ディリーの自伝を基にした作品。

彼女は13歳の時、お金と引き換えに自分の祖父ほどの年齢の男に嫁ぐことを強要される。それがどうしても納得できない彼女は、家族の寝ているスキに脱走する。

祖母の住む町を目指して、石ころだらけの荒涼とした砂漠地帯を幾日も裸足で歩くワリス。韓国映画「クロッシング」のジュニ少年の姿と重なり、胸が締めつけられそうになる。

祖母はワリスをロンドンに送り出すが、その後祖国は内戦に突入し、無政府状態となってしまう。帰国を拒否した彼女は不法滞在者となり、路上生活者としての過酷な生活を強いられる。

ところが、そんな彼女に千載一遇のチャンスが訪れる。バーガーショップで清掃婦として働いていた時、ファッション・カメラマンのテリーに見出され、モデルとして働けることになったのだ。

エキゾチックで端正な彼女の美しさは、たちまちファッション界を魅了し、駆けるがごとくトップモデルへの階段を昇ってゆく。

しか~し!! そんなファンタジックで単純なシンデレラ・ストーリーだと思ったら大間違い。映画の本題はここからなのだ。

ソマリアでは、女の子が生まれると、まだ幼い頃に割礼をする風習がある。割礼とは言っても、剃刀で外陰部を削ぎ落とし、そこら辺にあるイバラで縫い合わせるという、粗暴極まりないもの。出血や感染で命を落とすこともしばしば。そんな危険を冒してまでも純潔を守ろうということらしい。

トップモデルとなってから、ワリスは割礼を受けていることをカミングアウトする。どれほど勇気のいることだったか、想像するに余りある。それは世界的な大反響を呼び(わが国ではスルーされてたぞ、どういうこと?)、その悪しき風習に終止符を打つ原動力となる。

国連本部で各国の代表を前に演説するワリス。憎むべきは悪しき風習だけで、家族や祖国に対する愛情は今でも変わらないと訴える。

" I love my father. I love my mother. I love Africa."

アフリカを愛しているからこそ、もっと素晴らしい場所になってほしい、そんな彼女の気持ちが痛いほど心に突き刺さった。

世界には、まだまだ虐げられた女性が多く存在する。
次に挙げる本も、是非多くの人に読んでもらいたい。
生きながら火に焼かれて.jpg
中東の小さな村に生まれた少女の物語。17歳の時初めての恋をし、子供を身ごもったため、家族の名誉を汚した罰として義理の兄から火あぶりにされた。(これを「名誉の殺人」と呼ぶらしい)

重度の火傷を負いながらも奇跡的に救出され、20数回におよぶ手術を経て、現在ヨーロッパで新たな人生を歩んでいるが、今でも身元がバレると再び命を狙われる危険性があるため、人前では常に仮面を被っていなくてはならないという。


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デイブレイカー   @福山コロナシネマワールド [映画(た)行]

デイブレイカー.jpg
満足度 ★☆

今回は、ブレーカーズつながりということで、管理人がDAIGOさんになりきってレヴューしてみましょう。

みなさま、明けましておめでとうございま うぃっしゅ!

あのぉ~、はっきり言っちゃっていいスか?
最初の設定は面白いんスけどぉ、ハンパなく強引な展開だしぃ、最後のツメもいい加減なんでぇ、ガチでB級臭さが好きだって人以外にはぁ、あまりすすめられないっスね。

そもそもぉ、原題の「デイブレイカーズ」からぁ、「ズ」を省いてしまうセンスがぁ、信じられないと思うんっスよね。オレたち「BREAKERZ」もぉ、最後の「Z」にはこだわってんスけどぉ、これ省かれちゃったらぁ、マジ腹立ちますもん。

やっぱり、こういう口調って疲れるので、普通に戻りますね。

一匹のコウモリから始まった感染症により、人類のほとんどがヴァンパイアになってしまった近未来。常に人間の生き血を補給しないと生きてゆけないヴァンパイアたちは、残り少なくなった人間を捕獲し、飼育することによって生き血を確保していたが、ついに人間の比率が全人口の5%しかなくなり、深刻な生き血不足に陥っていた。

主演のイーサン・ホークは、代用血液の開発に従事する研究員の役。このところ頼りない役の多かった彼も、今回はなかなかカッコいい。もちろん彼もヴァンパイアで、既に300年以上生きているという設定だが、たしか今は2019年って言ってなかったか?

全体を通じて科学の「か」の字もないような稚拙なシナリオ。

たとえば、街のコーヒーショップではコーヒーに人血を混ぜて飲ませているが、人血不足のために混ぜる割合を減らしたら暴動が起きてしまうというくだりがある。
熱いコーヒーに血液を入れたらどうなる?
蛋白の熱凝固って習わなかったか?

それ以外にも思わず首をひねってしまうところが多々あり、製作者たちの科学的センスの無さに呆れてしまう。いくらサイエンス・フィクションでも、科学の基本を無視しちゃダメだろう。

それに、途中からゾンビ映画みたいになってしまうところもおかしい。
ヴァンパイアちゃうんかい! ゾンビやったんかい!

ソイレント・グリーン.jpgおそらく、近未来の食料難を描いた映画「ソイレント・グリーン」をパクッたからヒントを得たのだろうが、40年近くも前の映画なのに、あちらの方がよっぽど映画としてはしっかりしていたと思う。





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月に囚われた男   @シネマ・クレール [映画(た)行]

MOON



















満足度  ★★★★

映画は脚本が第一、という当たり前のことに真面目に取り組み、見事に結実させたシブい秀作。

地球の資源が枯渇してしまった近未来、エネルギー源となるヘリウム3を採取するため月に派遣された男の話。クルーは彼ただ一人、話し相手はコンピューターのみ。孤独に耐えた3年の任期があと2週間で終わるという時、彼の体に異変が起きはじめる。

地球から38万キロも離れた月に、しかも人類の存亡がかかっている大切なエネルギー源の採取に、たった一人だけを派遣するということは、普通ならまずあり得ない。不測の事態に備えて幾重もの安全策を講じるのが常識だ。それなのにどうして彼一人なのか? そこがこの物語のキモになっている。

で… そうきましたか、なるほど。
タネ明かしされてからの展開も面白く、最後まで飽きさせない。

ほぼ全編サム・ロックウェルによる一人芝居。「グリーンマイル」での凶悪犯や、「マッチスティック・メン」でのペテン師といった、クセのある役をこなしてきた彼が、この難しい役を見事に好演している。

また、唯一の話し相手であるコンピューターのガーティとして、ケビン・スペイシーが声だけの出演をしており、彼の好サポートを得て何とも味わい深い作品となった。

「2001年宇宙の旅」のHAL9000と違い、ガーティは人間に好意的で、サムが窮地に立たされた時も、そっと救いの手を差し伸べてくれるのだ。ディスプレイにニコちゃんマークを表示して感情を表わすところは人間的でもある。

「ソイレント・グリーン」や「アウトランド」など、地球上の食料や資源が枯渇した近未来の話はたくさんあり、たいていは背後にうごめく巨悪によって誰かが犠牲になるという構図が多い。

この作品もやはり、究極まで効率化を追求したエネルギー供給会社の企業倫理によって、主人公の人間性が踏みにじられるという話だ。しかし、最後は巨悪に立ち向かい、叩きのめしてくれるので、溜飲が下がる。

白を基調としたセットは「2001年宇宙の旅」そのもので、あの世界観が好きな者にはたまらない。サムが植物を大切に育てているところは、「サイレント・ランニング」へのオマージュと思われ、個人的にはかなりツボだった。

監督のダンカン・ジョーンズは、デイヴィッド・ボウイの息子らしい。ボウイといえば、ジギー・スターダストとしての活動や、「地球に落ちてきた男」への出演などで、何かと宇宙に縁のある人。原題の「MOON」に「月に囚われた男」という邦題をつけたのは、そういう理由だったのか。

DVDがリリースされているかどうかチェックしようと思って密林の奥をのぞいてみたら、こんなものが売られている。

DVD配給会社は最初からカップリングで売るつもりだったに違いない。邦題まで似たようなものにして。ここまであからさまにやられると、もう笑うしかない。




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冷たい雨に撃て、約束の銃弾を   @新宿武蔵野館 [映画(た)行]

Vengeance





















ハードボイル度 ★★★★   満足度 ★★★★

よくもまあ臆面もなく、こんなに大仰な邦題を付けたもんだ。
チケットを買う時、妙にこっぱずかしいし、だいいち長いよ!

レイモンド・チャンドラーの「さらば愛しき女よ」とか、西村寿行の「君よ憤怒の河を渉れ」の線を狙ったんだろうけど、狙いすぎてスベっているとしか思えない。作品を辱めてしまうような邦題をつけるくらいなら、オリジナルの「復仇」のままでいい。

日曜日、東京での研修が終わり、帰りの新幹線までの時間、大急ぎで新宿武蔵野館に向かう。哀しいことに、私の住む中国地方では上映されないことになっているからだ。

チケット売り場で、「あのー、冷たい雨に○※▽□☆・・・」みたいに噛むに違いないと思って、「冷たい雨に、1枚。」と無難な道を選んだ。スタッフのお兄さん、「ははん、噛むの恐れて短く言ったな?」とでも言いたげな表情でニヤリ。ちょっと悔しい。

ジョニー・トー監督による香港ノワール作品は、前作の「エグザイル/絆」でひとつの完成形をみており、もうこれで完結だろうと思っていた。しかし、今回ノワールの元祖フランスから熱烈なコールがあったようで、彼らは強力な刺客を送り込んできた。

その刺客とは、フランスのプレスリー、シルヴィ・ヴァルタンの元旦那、列車に乗った男、ことジョニー・アリディ。彼を主役に、もういちどノワール作品を撮ってほしいと言われたらしい。しかし、何故にアリディ?監督とのジョニーつながり?そりゃないか。

答えは監督のインタビューの中にあった。監督は当初、アラン・ドロンを主役に据えようと考えていたが、脚本を読んだドロンがオファーを断り、代役としてアリディが浮上したという経緯があったようだ。

そのアリディが、これ以上ないほどにキマっている。
マカオに嫁いでいた娘一家が惨殺され、パリから駆けつけた初老の紳士。今でこそレストランのオーナーシェフをしているが、かつては腕の立つ殺し屋だったという設定。瀕死の娘に復讐を約束する。

しかし、黒いトレンチコートとソフト帽でキメた元殺し屋も、マカオでは完全にエトランジェ、何から手を付けてよいかわからない。しかも、彼の頭の中には現役の頃に受けた銃弾が残っていて、記憶を消し去ろうとしているのだ。

そこで登場するのが、アンソニー・ウォン、ラム・シュ、ラム・カートンという香港ノワールの常連たち。「エグザイル/絆」のキャストのまんまだが、香港の寺門ジモン(と私が勝手に呼んでいる)ロイ・チョンが出演していないのは残念だ。暗黒街のボス役サイモン・ヤムまで一緒なのに。
(参考画像 : ロイ・チョン)
Roy 2Roy 1






アリディ演ずる元殺し屋が初めて名前を名乗った時、この作品がメルヴィルの「サムライ」を下敷きにしていることに気付く仕掛けになっている。
監督がまずアラン・ドロンに主役をオファーしたのは、そういう理由だったのだ。
Samourai
アンソニー・ウォンたち三人がホテルでの「仕事」を終えた直後、廊下でアリディに出くわしてしまうシーン、帰る途中で服と拳銃を川に投げ捨てるシーン、その後アリディが警察署で参考人の面通しに立ち会った際、中にラム・カートンが居たのにウソをつくシーンなどは、「サムライ」のそれを踏襲している。

ジョニー・トー作品だから、男たちがどうなるかは最初からわかっている。それでも観てしまうのは、東映の任侠映画と同じ理由だ。彼らは損得勘定で動くのではない。男として「スジ」が通せるかどうかがすべてなのだ。そのためには命をおとすことだっていとわない。日本で産まれた任侠映画が、香港とフランスのシェフによって調理され、新たな料理として花を咲かせている。

今回、アラン・ドロンが出演を断ってくれて良かったと思う。年老いたジェフ・コステロなど見たくもないから。ドロンもきっと同じ気持ちだったに違いない。

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そういえば、こんなのもありましたねえ。


チェイサー [映画(た)行]

CHASER
















満足度 ★★★★

1年前に観逃していた作品。DVDで鑑賞してみて、やっぱり何が何でも劇場へ足を運ぶべきだったと、あらためて後悔の念を強くした。

全編途切れることなく続く緊張感は半端ではない。観終わった後でドッと疲労感に襲われ、ソファに体を横たえたまましばらく天井を見つめていた。気力も体力も充実した時でないと観るべきではないな、思わずそう呟いた。

例えて言うと、焼肉屋で最初から最後まで極上ホルモンだけを食べ続けたような感じだ。塩タンのさっぱり感もタレ漬けカルビの風味深さもない、この徹底したギトギト感、容赦ない血生臭さこそが、昨今の韓国映画の魅力であり魔力でもあると思う。

製作者が意図したものかどうかはわからないが、これまでに観たお気に入りの作品のテイストがふんだんに散りばめられているところもポイントが高い。

殺人の現場となった浴室    → SAW(ソウ)
道具として使われるトンカチ  → オールド・ボーイ
犠牲者を引っ掛けておくフック → フロンティア もしくは
                     テキサス・チェーンソー
パーツを飾っておく水槽     → カル
幼い女の子との奇妙な愛情  → レオン

あくまでも独断と偏見に満ちた私見なので、あしからず。

チェイサー、つまり追いかける人である主人公のジュンホは、元刑事だが今はデリヘルの元締めをしている。髪はボサボサ、メタボ体型で、どう見ても格好良くはない。ソウルの山手、起伏の激しい所を走り回らされてヘロヘロになっている姿は気の毒なほど。

しかし、職業的背景といい、容姿といい、あえてスマートでない人物を主役に持ってきたことで、リアリティを増す効果を生んでいる。観客は彼と一緒に息を切らしながら走り回っているような気になってくる。

ジュンホが葉加瀬太郎に見えて仕方ない。

一方、追われる立場のシリアルキラー、ヨンミンは憎たらしいほどにスマートだ。追う立場のジュンホと対極的な描き方をすることで、ますます憎たらしさが増してくる。

ヨンミンが高橋克典に見えて仕方ない。

したたかな犯人と彼に愚弄され続ける無能な警察との間で孤軍奮闘するジュンホ。あと少しというところで追い詰められないもどかしさを上手くコントロールしながら、観ごたえのあるドラマに仕上げている。

ナ・ホンジン監督にとって、これが初の長編作品だという。次から次へと魅力的な作品を送り出してくる韓国映画界の底力を、まざまざと見せつけられた気がした。


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