冷たい雨に撃て、約束の銃弾を @新宿武蔵野館 [映画(た)行]
ハードボイル度 ★★★★ 満足度 ★★★★
よくもまあ臆面もなく、こんなに大仰な邦題を付けたもんだ。
チケットを買う時、妙にこっぱずかしいし、だいいち長いよ!
レイモンド・チャンドラーの「さらば愛しき女よ」とか、西村寿行の「君よ憤怒の河を渉れ」の線を狙ったんだろうけど、狙いすぎてスベっているとしか思えない。作品を辱めてしまうような邦題をつけるくらいなら、オリジナルの「復仇」のままでいい。
日曜日、東京での研修が終わり、帰りの新幹線までの時間、大急ぎで新宿武蔵野館に向かう。哀しいことに、私の住む中国地方では上映されないことになっているからだ。
チケット売り場で、「あのー、冷たい雨に○※▽□☆・・・」みたいに噛むに違いないと思って、「冷たい雨に、1枚。」と無難な道を選んだ。スタッフのお兄さん、「ははん、噛むの恐れて短く言ったな?」とでも言いたげな表情でニヤリ。ちょっと悔しい。
ジョニー・トー監督による香港ノワール作品は、前作の「エグザイル/絆」でひとつの完成形をみており、もうこれで完結だろうと思っていた。しかし、今回ノワールの元祖フランスから熱烈なコールがあったようで、彼らは強力な刺客を送り込んできた。
その刺客とは、フランスのプレスリー、シルヴィ・ヴァルタンの元旦那、列車に乗った男、ことジョニー・アリディ。彼を主役に、もういちどノワール作品を撮ってほしいと言われたらしい。しかし、何故にアリディ?監督とのジョニーつながり?そりゃないか。
答えは監督のインタビューの中にあった。監督は当初、アラン・ドロンを主役に据えようと考えていたが、脚本を読んだドロンがオファーを断り、代役としてアリディが浮上したという経緯があったようだ。
そのアリディが、これ以上ないほどにキマっている。
マカオに嫁いでいた娘一家が惨殺され、パリから駆けつけた初老の紳士。今でこそレストランのオーナーシェフをしているが、かつては腕の立つ殺し屋だったという設定。瀕死の娘に復讐を約束する。
しかし、黒いトレンチコートとソフト帽でキメた元殺し屋も、マカオでは完全にエトランジェ、何から手を付けてよいかわからない。しかも、彼の頭の中には現役の頃に受けた銃弾が残っていて、記憶を消し去ろうとしているのだ。
そこで登場するのが、アンソニー・ウォン、ラム・シュ、ラム・カートンという香港ノワールの常連たち。「エグザイル/絆」のキャストのまんまだが、香港の寺門ジモン(と私が勝手に呼んでいる)ロイ・チョンが出演していないのは残念だ。暗黒街のボス役サイモン・ヤムまで一緒なのに。
(参考画像 : ロイ・チョン)
アリディ演ずる元殺し屋が初めて名前を名乗った時、この作品がメルヴィルの「サムライ」を下敷きにしていることに気付く仕掛けになっている。
監督がまずアラン・ドロンに主役をオファーしたのは、そういう理由だったのだ。
アンソニー・ウォンたち三人がホテルでの「仕事」を終えた直後、廊下でアリディに出くわしてしまうシーン、帰る途中で服と拳銃を川に投げ捨てるシーン、その後アリディが警察署で参考人の面通しに立ち会った際、中にラム・カートンが居たのにウソをつくシーンなどは、「サムライ」のそれを踏襲している。
ジョニー・トー作品だから、男たちがどうなるかは最初からわかっている。それでも観てしまうのは、東映の任侠映画と同じ理由だ。彼らは損得勘定で動くのではない。男として「スジ」が通せるかどうかがすべてなのだ。そのためには命をおとすことだっていとわない。日本で産まれた任侠映画が、香港とフランスのシェフによって調理され、新たな料理として花を咲かせている。
今回、アラン・ドロンが出演を断ってくれて良かったと思う。年老いたジェフ・コステロなど見たくもないから。ドロンもきっと同じ気持ちだったに違いない。
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そういえば、こんなのもありましたねえ。
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