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闇の列車、光の旅   @シネ・リーブル梅田 [映画(や)行]

闇の列車、光の旅.jpg
満足度 ★★★★☆

このヒリヒリした灼熱感は何だ?
出口の見えない閉塞感は何だ?
いつか、光は差すのだろうか?

今年は何故か「国境系」の映画が多い。
「フローズン・リバー」しかり、「クロッシング」しかり、いずれも貧しさから脱出するため国境を越えてゆく話だった。
この作品は、前記2作品に勝るとも劣らない傑作だと思う。

私の名前はサイラ。南米のホンジュラスっていう国に住んでるんだけど、日本のみんなは、何処にあるか多分知らないわよね。メキシコの南がグアテマラで、さらにその南なの。憶えておいて。

決して暮らしは楽ではないわ。パパは私がまだ幼い頃、アメリカに出稼ぎに行ったままで、何年も会えなかったの。もちろん不法入国、不法就労だったんだけど、それがとうとうバレてしまって、強制送還されてきたの。

でも、私たちにとって、パパをまたアメリカにこっそり送り出すしか、生きてゆく方法はないの。「一緒にアメリカに行って、あっちで暮らそう。」、パパはそう言うんだけど、最初はあまり気が進まなかった。でも、ここに居ても状況は変わらないし、叔父さんも付いて来てくれるって言うから、やっぱり行くことにしたの。

切符なんて買えないわ。貨物列車の屋根にこっそり上って、そこで何日も過ごすの。雨が降れば、みんなでビニールシートを広げてしのがなきゃならないし、寝る時は貨車の金具にベルトを縛り付けて、振り落とされないようにするのよ。まさに決死の旅路ね。

メキシコの途中で、私たちは最大のピンチに遭遇したの。突然、ギャング団が襲ってきて、お金を奪われたわ。それだけじゃなく、リーダーの男が私を暴行しようとしたの。もう逃げられない、と思った時、手下の男がなぜかリーダーを突き落として、助けてくれたの。

彼、カスペルって呼ばれてたけど、私のせいで組織から命を狙われるようになってしまったわ。悪い人じゃないのよ、生きるためにギャング団に入ってただけ。私を巻き込まないよう、こっそり列車から降りたんだけど、放っとけなくて、私も一緒に降りちゃった。

え~~~!! 降りるのかよ、そこで! と、つい声を上げそうになった。
はたして彼女はアメリカに着くことができるのか?本当にヒヤヒヤする。

語り口は淡々と、それでいて描写は非常にリアルだ。撮影に先立って、監督は一人で南米に出かけ、貨車の上で国境を越える人々と共に過ごしたそうだ。そういう体験がなければ、ここまで迫力のある作品にはならなかっただろう。

原題は " Sin(Without) Nombre(Name) " で、「名もなき人々」とでも訳すべきだろうか?

サイラたちの物語が決して特別なものではなく、南米の「名もなき人々」には日常的に起こっているということに、我々は気付かなくてはならないのだ。

本作のイグゼクティヴ・プロデューサーとして、ディエゴ・ルナとガエル・ガルシア・ベルナールがクレジットされている。実力派若手俳優として国際的に活躍するばかりか、良い作品と見るとプロデュースまでしてしまう彼らにも、賞賛の拍手を送りたい。


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コメント 9

Bobby

この映画のレビューをいくつか読んでいました。どれも評価が高く、観てみたい映画の一つではありますが、誰もが『貧困』とか『厳しい現実』といった言葉をフォーカスするので、正直気が滅入るのじゃないかと不安です。過酷な状況に生きる人達がいること自体『希望』なんだと思うことにしよう。

『レスラー』観ました。どっちつかずのエンディング。
Kenさんならどんなストーリーを想像しますか?
by Bobby (2010-09-25 00:06) 

でかのすけ

Bobbyさんの、過酷な状況に生きる人達がいること自体『希望』なんだ。←この考えに、共感させられ又、励まされます。
by でかのすけ (2010-09-25 16:28) 

Ken

>Bobbyさん

非常にネガティヴなテーマではありますが、お涙頂戴的に描くのではなく、あくまでも淡々と現状を描いているだけなので、気が滅入ることはあまりないと思いますよ。
最後に一筋の光は見えてきますから。

「レスラー」のエンディングですか?
ランディは死にはしなかったものの、一生車椅子の生活となり、キャシディの支えなしには生きてゆけなくなる。彼はそれが耐えられなくなり、安楽死の道を選ぶ、ってのはどうでしょう?
でも、それじゃ「ミリオンダラー・ベイビー」みたいか?

やっぱり、あそこでスパッと終わったままにしておくのが一番かと。
by Ken (2010-09-26 23:00) 

Ken

>でかのすけ さん

彼らはいかに過酷な状況にあっても、決して泣いたりしません。
泣いて同情を集めたところで、何の解決にもなりませんから。
常に前を向いて、希望を見つけようと邁進する姿に励まされます。
by Ken (2010-09-26 23:05) 

でかのすけ

はい、私も…つまらないポリシーですけど…「女は泣くな!」って思い生き続けて来ました。し、これからも…そうやって生き続けて行くつもりです。
by でかのすけ (2010-09-27 13:57) 

でかのすけ

そうそう、一度Kenさまに「ミリオンダラーベィビー」の感想をお尋ねしたかったのですよ。

あの後のボス(クリント・イーストイット)は、何処へ行ったのか?←ちょうど、当時(約5年前)に「不治の難病のルームメイト」の、自宅のみでの闘病生活してました。ルームメイト曰く「私には、親も兄弟も要らない、あんただけでいい。救急車も呼ぶな!」の方針で、1日の内に40℃以上の熱発を繰り返し、痛みを押し殺して…深夜に影で泣いてました。本当に二人きりの壮絶な生活でした。
その過程に、真夏の15時かすれ声で「すいか、食べたい」と、早速、自転車で「すいか」買いに出た私。急ブレーキでロックして、ジャックナイフ状態→骨盤パックリ骨折してERな病院に搬送されました。然し、入院4日目に外出してその人と「ミリオンダラーベィビー」観ました。いつも形から入る私。5日目に、主治医の反対押し切り退院しました。退院祝いに、なんて素敵な「レモンパイ」を地元では唯一の百貨店のケーキ屋さんにオーダーメイドしたらしい。…ヤられました(*^_^*)
2007、2.28の深夜自ら携帯電話で「救急車」を呼び、(まだまだ生きる希望を抱いての決意だったのです)残念ながら予想外にて…2007.3.14に逝ってしまったんだけど…。大変有難い貴重な思い出です。
毎年、桜のお花見に二人で行った桜の咲くお城の近くの病院で、その年の桜は見ること出来ず。→しばらく「さくら色」は、哀しすぎて聴けませんでした。

長文すみません。
by でかのすけ (2010-09-27 15:19) 

Ken

フランキーは、自分の娘には縁を切られてしまい、
娘みたいなマギーは安楽死させてしまいました。

あれじゃ、死んでも救われることはありません。
むしろ、彼はキリスト教的な倫理観を忌み嫌って
いましたから、あえて救われない道を選んだと
いうことでしょう。
だから、彼は自ら死を選ぶことはなく、神の審判
(裁くのは人間ですが)に身を委ねたと思います。
そしてこう言う、「どうだ、俺を好きに裁くがいい。」
by Ken (2010-09-27 16:29) 

Bobby

もちろん終わりにした方が物語の完成度が増す事はわかっています。あんな質問をしたのは、僕自身の個人的な感情が介在するからです。女・子供にふられたくらいでやけになっちゃいけない、と。過激な乱闘シーンもぐっと身をかためて観た。だから、『もうちょっとがんばってよ、、』と思ってしまうんです。

イーストウッド監督の映画嫌いではありません。おそらく彼はこうも言うでしょう、『make my day』。
by Bobby (2010-09-27 22:13) 

でかのすけ

こんにちは、Bobbyさん♪
私には…Bobbyさんの現状知らないですけど…(当然でした) 私も、クリント・イーストウッド監督の描く映画は、役者や市長さん時代から…好きです。監督しだしてからが、より凄いモノ感じさせます。なんとなくですけど…(失礼かな?)

Bobbyさんのコメントに、共感するので、お返事しました。

Kenさんのブログなのに…ごめんなさい、すみませんです。
by でかのすけ (2010-09-28 10:28) 

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