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クレイジー・ハート   @シネマ・クレール [映画(か)行]

CRAZY HEART

 

 

 

 

 

 

 

 



満足度 ★★★★

アメリカにしかない素材、アメリカでなくては撮れなかった作品。
長い間忘れていたものを、ハリウッドはやっと見つけたようだ。

" THE HARDER THE LIFE, THE SWEETER THE SONG "

と、タイトルに添えられたコピーがいい。
「つらい人生を歩んだ者ほど優しい歌を歌える。」ってことだよねえ。

かつては一世を風靡したが今は落ちぶれて酒浸りのカントリー歌手が、ドサ廻りの途中で女性と恋に落ち、人生に目覚めて立ち直ってゆくという、まあ言ってみれば手垢のついたようなストーリーだが(先ごろ観た「レスラー」と微妙に重なる)、そういうよくある話を鑑賞に堪える作品にまで昇華させたのは、音楽と映像と役者の力だ。この作品はその三者のいずれもが抜きん出ていて、観終わった後も暖かいものをずっと胸に残してくれる。

とりわけ主演のジェフ・ブリッジズの存在感が素晴らしい。これまでタイトルとは無縁であった彼が、この作品でやっと主演男優賞を獲ることができたのは、永年のファンとしてとても嬉しい。

若き日にクリント・イーストウッドと共演した「サンダーボルト」、兄のボー・ブリッジズとともにピアニストの兄弟を演じた「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」、ロビン・ウィリアムズとの絶妙な絡みが面白かった「フィッシャー・キング」、ティム・ロビンスとの息詰まる攻防をみせた「隣人は静かに笑う」、そしてなんといっても唯一無二の最高傑作「ビッグ・リボウスキ」と、彼の主演したお気に入りの作品には枚挙のいとまがない。

さて、今回の彼の舞台はカントリー・ミュージックの世界。このアメリカにしかない素材を扱ったことが成功の秘訣だったと思うのだ。

アメリカ独自の文化とはいえ、カントリー・ミュージックは、日本における演歌、ブラジルにおけるボサノバのように、若者からは「年寄りの聴く古臭い音楽」という認識を持たれている。今ではすっかりメジャーになったテイラー・スウィフトでさえ、カントリー歌手になることを夢見ていた子どもの頃は、笑いの的となり、ずいぶんイジメも受けたらしい。そういう事情を踏まえて映画を観ると、またちょっと違うものが見えてくるかもしれない。

主人公のバッド・ブレイクは往年のカントリー・シンガー。かつてバックバンドのメンバーとして自分が手取り足取り教えたトミーがトップスターとなり、皮肉なことに、今度はそのトミーの前座を自分が努めなくてはならなくなる。気は進まないが、新曲が書けず酒浸りの貧窮状態だ、生活のためにやるしかない。

何十人ものクルーが忙しく準備する中で、トミーのマネージャーに「PAはどこだ?運ばせようか?」と訊かれて、「フェンダー(のギターアンプ)だけだよ。」と答えるところが可笑しい。トミーが何万人規模のライブをこなしているのに対し、自分はギターとアンプを抱えてバーやボーリング場でこじんまり唄っては日銭を稼いでいるという情けない状況なのだ。

彼が最初にボーリング場で唄うシーン、ジェフのファンならニヤリとするはずだ。「ビッグ・リボウスキ」を連想させるから。アメリカではファンが定期的にボーリング場でミーティングを開いているくらい愛されている作品で、私ももちろん大好きだ。ジョン・グッドマンが出てくれると、もっと嬉しかったけれども。

主演のジェフも、トミー役のコリン・ファレルも、歌うシーンは吹き替えなしだったと思う。ジェフは既にミュージシャンとしても活動しているので、歌の上手いのは知っていたが、コリンの歌唱力には驚かされた。最後にきちっと師匠への恩返しもしたりして、コリンはかなりオイシイ役をさせてもらっている。

エンディングもテキサスの男らしく無骨だが爽やかに締めくくる。派手なアクションや3DCGがなくても、映画はエンタテインメントとして充分成り立つということを証明してくれる秀作だった。


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