SSブログ

クロッシング   @シネマ・クレール [映画(か)行]

CROSSING

 

 

 

 

 

 






満足度  ★★★★

観終わった後、しばらく席を立つことができなかった。

脱北という禁断のテーマに真っ向から取り組んだキム・テギュン監督の勇気には、惜しみなく賞賛の拍手を送りたい。

製作当時の政治情勢を考えると、撮影がいかに危険を伴うものであったか、それは容易に想像できる。さらに、配給の段階においても紆余曲折があったと聞いている。この作品は、計り知れないほどの幾多の困難を乗り越えて、やっと世に出されたのだ。今、この時期に作られたということに非常に大きな意味がある。

キム・ヨンスは北朝鮮の元サッカー選手。現役時代は勲章をもらうほどの活躍をしたが、今は炭鉱夫として平凡な暮らしをしている。妻と息子ジュニとの生活は貧しく、日々食べるものにも事欠くほどだ。

慢性的な栄養失調により、とうとう妻が肺結核を発症してしまう。治療に必要な薬は北朝鮮では手に入らない。日に日に衰弱してゆく妻を見て、ヨンスは決心する。中国に密入国して金を稼ぎ、その金で治療薬を買うのだ。中国政府に見つかれば、強制送還されて収容所に送られ、そこで命をおとすかもしれないが。

決死の思いで国境の川を渡るヨンス。2月に観た「フローズン・リバー」のシーンがカブってくる。貧しさゆえ国境を越えるという状況は、国は違えど同じようなものだ。国民にこんなことを強いるのは、政治の責任に決まっている。

中国に入ってコツコツ貯めた金も、ある日強制捜査の手が入り、逃げる途中ですべて失ってしまう。「このまま手ぶらで帰るわけにはいかない。」と悲嘆にくれるヨンス。
そこに忍び寄る悪徳ブローカーたち。韓国に行って簡単なインタビューに応じれば、お金も貰えるし家族も呼び寄せられる、という甘い言葉にそそのかされ、韓国へ。

結局、彼は意思に反して亡命してしまう。期待していたお金は貰えず、またコツコツと働いて貯めるしかなくなる。やっと薬が買えそうなほどの貯金ができた時、薬局で驚愕の事実を知る。「結核の薬なら、保健所に行けばタダで貰えますよ。」、そう言われた時のヨンスの呆れ顔が何とも言えない。

やっとの思いで薬を手に入れたのに、すでに妻はこと切れていた。「イエス様は南にしか居ないのか!どうして北を放っておくんだ!」、荒れ狂うヨンス。観ていて胸が張り裂けそうになる。

孤児となってしまった息子ジュニは、父に会うためにモンゴルを目指す。国境は越えたものの、そこはとてつもなく広大な砂漠。歩けど歩けど父の待つ場所にはたどり着かない。ついに力尽きたジュニは、満天の星のもと、父や母と楽しく暮らしていた頃を思い出しながら、静かに息を引き取る。

ハッピーエンドにならないことは覚悟していた。脱北という、現在も解決の糸口さえ見つかっていないテーマを扱っているだけに、こういう理不尽なエンディングにならざるを得なかったのだろう。製作に先立って、キム・テギュン監督は、脱北者100人近くにインタビューしており、実際はこの物語以上に悲惨なケースもあったという。

海を隔てたすぐ向こう側で起きているこの非人間的な現実から、我々は決して眼をそらしてはいけない。

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ    ← よろしければポチッとお願いします。
にほんブログ村


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。