リミッツ・オブ・コントロール @シネマ・クレール [映画(ら)行]
満足度 ★★★★★
ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの新作。こういう作品が地方都市で観られるのは奇跡に近い。シネマ・クレール丸の内の存在は本当にありがたいと思う。
映画の印象を一言で表現すると、余計な演出を一切省いた「侘び寂びの世界」である。変な話だが、枯山水や茶の世界に通じるものを感じる。ジムの作品のことを「動く美術館」と言った人が居たが、まさにその通りだ。
クールでストイックな謎の男がスペイン各地を転々としながら、行き先でメッセンジャーからの指令を受け取る。その指令の受け渡し方がユニーク、そしてその後の処理がまたユニークで可笑しい。彼が何者なのか、指令が何なのか、何処から来て何処へ行こうとしているのか、観客は最後まで知らされない。
主役となる謎の男を演じるイザック・ド・バンコレの、ほとんど表情を変えない演技が非常に印象的だ。ややもすると説明過剰、演技過剰の作品が多すぎてうんざりする中、こういうあっさりした演出は、とても新鮮に感じる。
脇を固めるのは、ジョン・ハート、ビル・マーレイ、ガエル・ガルシア・ベルナールという個性あふれる役者たち。たった数分間のために彼らを呼び寄せるなんて、なんと贅沢な作品だろう。
しかし、最も嬉しかったのは、トーレス・ブランカスの登場だった。
スペイン語で「白い塔(複数)」を意味する印象的な建物だ。
スペインは奇抜な建造物の宝庫で、どの街を訪れても、「おや?あれは?」と思わせる建物がいくつか存在する。昨年マドリッドを訪れた時、偶然バスの中からこの建物を見て、心を奪われてしまった。ガイドさんが、「あれは、トーレス・ブランカスと言って、有名な建築家の作品ですよ。」とおしえてくれた。
見れば見るほど不思議な建物だ。旅行中ずっと気になっていたので、帰国してからググッてみたら、設計図らしきものが見つかった。
外から見る以上に複雑な構造のようだ。これを設計した人も凄いが、設計図をもとに建てた人たちはもっと凄いと思う。是非いつか内部を見てみたいと思っていたので、予期なく映画に登場した時、驚きと歓喜のあまり声を上げそうになった。
トーレス・ブランカスを初めて登場させた映画、というだけでも極めて価値の高い作品だろう。目くるめく映像美を堪能できる。
" LA VIDA NO VALE NADA " (人生なんて何の価値もない)
ガエル・ガルシア・ベルナール演じる青年の乗るピックアップワゴンの後ろに書いてあった、この渇いた言葉が、いつまでも心に残った。
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