もうひとりの息子 [映画(ま)行]
満足度 ★★★★★
これは今年度のベストかもしれません。(公開されたのは昨年ですが)
イスラエルのテルアビブで暮らすフランス系ユダヤ人のヨセフは、18歳になり3年間の兵役に就くことになります。ところが採用時の血液検査で、両親と血が繋がっていないことがわかり、さらに調べると驚愕の事実が判明します。つまり彼は、出生時に病院で別の赤ちゃんと取り違えられていたのです。
しかもあろうことか、取り違えられていたのは、敵対するパレスチナ人の子ヤシンでした。日本でも同じような映画がありましたが、こちらはもっと深刻です。相手は言語も宗教も異なり、高い壁で隔てられたヨルダン川西岸地区に住んでいるのです。さらに、ヨセフの父はイスラエル国防軍の大佐というオマケ付き。
そもそもどうしてこういうことが起きたのか、すぐには理解できなかったのですが、ヨセフが生まれたのはイスラエル北部のハイファという古くからある港町で、イスラエル建国後も占領者(イスラエル人)と披占領者(パレスチナ人)が同居しており、湾岸戦争時には米軍の爆撃を逃れるために双方とも避難したようです。
自分たちが何か悪いことをしたわけではないのに、ある日を境に家族の絆が危うくなってゆきます。周囲の息子を見る目も変わってきます。これからどうしたら良いのか、途方に暮れている当事者たちの気持ちが痛いほど伝わって来て、成り行きを固唾をのみながらみるほかありません。
唯一の救いは、取り違えられた息子たちが二人とも立派な大人に育っていたことです。パレスチナ人なのにユダヤ人として育ったヨセフ、ユダヤ人なのにパレスチナ人として育ったヤシン、同じような立場に置かれた者同士、不思議な連帯感に導かれ、お互いの居場所を見つけてゆきます。
あやうく分裂しそうになった家族を繋ぎ止めたのは、双方の母でした。敵だの味方だの言うより、今まで仲良く暮らしてきた家族じゃないか、息子がもうひとり増えただけだ、そう考えて二人の息子を愛する母の偉大さに、ただただ感服させられます。女性監督ならではの母親目線が非常によく活かされた、素晴らしい作品でした。
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